先日、8月23日から26日迄スクールOBのF門さんの船を根室から小樽迄回航する航海に参加させて頂きました。北海道を半周するロングの航海でした。
航海はCマリンK地さんが居てくれたおかげで、食事が非常に充実していて連日みんなで食べ過ぎだとの意見も出るほどでした。F門さんをはじめ、I川さんK地さん充実した航海をありがとうございました。
8月23日
前日の午後、根室へ乗り込み航海中の食料等を買い出して明けて23日午前5時、オーナーのF門さんが船に到着するのを待って予定どおり出港しました。見送りには旧オーナーが早朝にもかかわらずかけつけてくれて、一日目の目的地『文吉湾』に向けて走り出しました。
風は前日から安定した東風、曇り空の下を順調に走りますが、空気が冷たいです。道東の寒さは予想していましたが、予想以上の涼しさです。各自ありったけの着るものを着込んで低温の海を走り、野付半島を過ぎて知床半島にさしかかる手前で、保安庁の巡視船がやってきました。
あきらかに、こちらの様子を伺っていますが、通り過ぎたところでストップしています。前日根室の港でも保安官がやってきて世間話程度の会話をしていましたから、標津か羅臼あたりの巡視船が様子を見に来ることは想定内です。やがて巡視船が後ろから追いかけてきて何やらこちらへスピーカーではなしかけてきました。向こうの電話番号が聞こえて、電話をかけてよこせといっています。
電話をかけると、今日の目的地はどこか?と充分注意して航行するようにとのご指導でした。後からわかったのですが、知床半島をカヌーで旅していた大学生がロシア側に流される事件が発生したばかりで、保安庁の緊張も当然だったと思います。
こちらもロシア側へ入らないように少し遠回りをして知床半島沿いを北上します。相変らず風は東よりで順調な航海です。予定どおり夕方には知床岬をかわして文吉湾に着きました。
この小さな港は陸路がなく、船でしか行けません。港の中には漁師の番屋が2軒と役所の工事のプレハブが2棟、あとは何もありません。静かな自然の中で夕食をとり、少しのお酒を頂いて早々に就寝、翌日からのオーバーナイトの航海にそなえました。
8月24日
朝4時過ぎ静かな朝がやってきて皆で出港準備にとりかかりました。
エンジンをかけると吹け上がりが今ひとつです。ペラに何か絡まっているのかとK地さんがもぐって点検しますがやはりエンジンはいまひとつです。ふけあがりが悪い事から燃料系統の不良をうたがって、セパレーターの点検をするとスラッジが溜まっているようです。燃料系統の清掃をしてエンジンがかかるまでおよそ3時間を要し、3時間遅れの出港となりましたが、私たちが出港しようとするその時に港の外の海岸に野性の熊が現れました。「さすが知床、熊がいるんだな」などとのんきに見物していると、防波堤の上をのしのし歩いてこちらへやってきます。役所のプレハブのすぐ前を通り、番屋に向って歩いています。プレハブも番屋も人が住んでいます。建物の中の人は特に驚いた様子もなく、熊に気付いてないのでしょうか? そうこうするうちに熊は私たちの船へ向って歩いてきます。急いで舫を解いて出港です!私は田舎暮らしで近くの山に熊が暮らしているような土地に住んでいますが、野性の熊に遭遇したのは初めての経験でした。
予定よりも遅れての出港でしたがすっかり熊に魅せられてしまって午前中は知床半島沿いを熊ウオッチングしながら進みましたが、生憎このあと熊を発見する事はありませんでした。正午頃ウトロに入港して軽油の補給と人間の食事の補給をしてから一路宗谷岬を目指しました。風は追っての軽風、機走で走るとセールを張れるほど強くはありません。しかも向潮でスピードものびません。歩くようなスピードで午後のオホーツク海の時間が過ぎていきます。しかし今日の海は驚くほど青く鏡のような海面に雲が映っています。
夜になっても風は変わらず、退屈な夜のワッチに突入です。
8月25日
前夜は空模様も快晴といかず、夜光虫もこころなしか少なめな中を2人コンビの3時間交代のワッチで過ごし静かな朝がきました。
パンとスープで朝食を済ませて、幾分近くなった宗谷岬を目指してセーリングです。すこし強くなった南風でジブセールを張って追っ手で距離を稼ぎます。この日北海道は全道的に天気が不安定で宗谷地方だけが晴れ間が出るようなコンディションでしたが、幸いなことに私たちの上空は見事に晴れ渡っています。午後から何かが海面を跳ねるのが見えました。すわ!獲物か? なんとイルカの群れに遭遇です。十数頭から数十頭はいるようです。彼らは好奇心からか、船の近くへやってきて楽しげに泳いでいましたが、そのうちの数頭が私たちの船を先導するかのようにバウ先で戯れています。しばらく彼らと走り、風が幾分吹き上がってきましたので新オーナーの舵の操作の練習となりました。舵を持つのがこの日で5回目のF門さんはカヌーで世界中を旅して来た強者です。きっと短い時間でヨットをマスターしてしまうでしょう。
イルカの歓迎と青い空と心地よい風で穏やかな気持ちになっていたのですが、重大な問題が私たちに差し迫ってきていました。
当初の航海計画では26日朝には小樽についている予定でしたが、どう考えて現在地からの時間が足りません。しかもF門さんは26日夕刻から用事が入っていて、どこかの港で降りて頂いて陸路で帰って頂くしかありません。非常に残念でしかも小樽迄ご一緒させて頂くのが私のミッションでしたから、目的を果たせなくなってしまいました。知床での熊見物とウトロでの昼食が余計だったかもしれまんが、昨日の午後からの向潮には勝てませんでした。今から風が吹き荒れても明日の午前の小樽到着は諦めざるを得ません。
F門さんを交えてどこの港で降りて、陸路をどうするかを話し合いました。最寄りの港は宗谷ですが、陸路の手当がつきません。結果翌日昼頃に留萌の港でお別れすることになりました。
宗谷の岬をかわす頃には夕刻がせまり、北の果ての海で少し寂しい気持ちになりましたが稚内側に渡ると悪い潮からやっと抜け出せてスピードに乗って来ました。幸いなことに日暮れ前に利尻富士が見えてきて夜の早い時間には日本海に出る事ができました。
この日の夜空は快晴で、見事な天の川が広がっています。風は上りになりましたが順風です。眠たいワッチの時間がゆっくり過ぎていきます。
8月26日
山の上から朝日が昇りました。
「昨日の夜、流れ星を幾つみた?」などと話ながらゆっくり朝食をとり、昨夜から距離を稼げたことをいいことに魚釣りに挑戦しました。見事につり上げられた獲物はK地さんの見事な包丁さばきであえなく三枚に下ろされ、すぐに食べられるように始末された魚はF門さんのご家族へおみやげに持っていってもらうことになりました。
予定どおり昼頃留萌の港へ入り、ここでF門さんとしばしのお別れです。陸に上がり街へ出て昼食を頂いて小樽をめざします。
風は西の順風でときおり8ノットを超える順調な航海でした。午後一番で留萌を出て、雄冬をかわす頃には夕方がせまってきましたが、この日のサンセットは非常に綺麗で今回の航海の中では一番の夕日でした。みんなで太陽を見つめて『今、水平線に着いた!』とか『今、楕円に伸びた!』などとおよそ年齢にそぐわない会話をしながら過ごしましたが、私にとっては今年レスキューボートに曳航された因縁の海でもありました。日が落ちた後も風は順調でその日のうちに小樽へたどり着けそうです。浜益の街の明かりが後ろに見え出すと、早くも祝津のオカの上の明かりが見えてきました。祝津の灯台が見えるまではまだしばらくありましたが、地元の明かりが見えるとやはり安心です。小樽沖3〜4マイルまで風は吹き続け、午後11時頃当初の予定に遅れる事十数時間で事故なく小樽に着きました。
この日の夕食は船内で麻婆豆腐の予定でしたが思いのほか風が良かったので、小樽で船を舫ってから少しのビールとともに夕食になり、お互いの労をねぎらいました。
今回の回航はミッションを100%成し遂げることができませんでしたが、人員・艇体ともに傷つけることなく終われました。
新オーナーのF門さん、航海を楽しんで頂けたでしょうか?さっそく奥尻クルージングのオファーを頂きましたが、身にあまる光栄です。
前向きにスケジュールの調整に取り組みたいと思います。
今回ご一緒させて頂いたI川さんも昨年からクルージングのオファーを頂いていましたが、今回やっと一緒にセーリングすることができました。外国への航海も近い将来実現させたいですね。
皆さん、お疲れさまでした。そしてありがとうございました。
必ずまたどこかの海へいきましょう!
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